さっさと不況を終わらせろ!

ポール・クルーグマン教授の2012年の著作で私のバイブルであります。表紙に以下の様に記されています。


「いまは政府支出を増やすべきときで、
減らすべきときじゃない。
民間セクターが経済を担って
前進できるようになるまでそれを続けるべきだ−−−
それなのに、職を破壊する
緊縮政策ばかりが広まっている。
だから本書は、
この破壊的な通説の蔓延を食い止め、
とっくにやっているべき
拡張的な雇用創出政策を
主張しようとするものだ。」

クルーグマン教授と言えば、それまでインフレターゲットリフレーション(通貨拡張政策)等の金融政策のみを主張する論者だと私は理解していた。

流動性の罠、子守り協同組合のクーポンの話等は非常に面白いです。

さっさと不況を終わらせろ!は、衝撃的な著作でした。

J.M.ケインズの一般理論を取り上げて財政支出の有効性を改めて世間に問うたことに驚いたわけです。

私ははじめて経済学に接したときにIS-LMケインズ経済学は関わりました。

しかし当時はミルトン・フリードマンの選択の自由がベストセラーでシカゴ学派が全盛の時代に入っていました。

新自由主義的政策が賞賛されていた時代でした。

アメリカは高いインフレに悩まされていて、インフレ抑制が重視されていて、ケインズは死んだと言われた時代でした。

ケインズ自身は第二次大戦後間もなく亡くなっているので、ケインズ経済学理論が有効でないと言われたことを意味しています。

何も知らない初学者は当然そういう社会の趨勢に影響されます。またある程度経験の有る者であってもケインズ経済学は古くて、現在の状況に当てはまらないと言われると感化されたことでしょう。

クルーグマン教授はケインズの著作「雇用、利子及び貨幣の一般理論」についてアメリカでは有害図書としているところがあると語っていました。
保守派はケインズの思想を歳出を多くし、税金を多くする。いわゆる大きな政府志向と嫌悪しがちです。

ケインズ経済学を改めて紹介するクルーグマン教授のことを社会主義者と揶揄嘲笑している人が存在しているのもアメリカの病んだ現実です。

今現在の日本の政策担当者もシカゴ学派ミルトン・フリードマンやロバート・ルーカス等のケインズ経済学を批判して脚光を浴びた学者の影響を受けています。新古典派経済学と言われるものです。

そして日本の学者、評論家で議論に巧みで声の大きいものは、ケインズを曲解して世間に誤った言説を流布しようと努めています。

ケインズの大きな業績は恐慌的不況のときには財政政策は非常に効果があることを紹介した一般理論です。
ケインズも金融政策の研究は行っていました。「貨幣論」、「貨幣改革論」等の著作もありますが一般理論の業績を故意に無視することは甚だ悪意を感じさせるところであります。

クルーグマン教授がまとめる一般理論の要旨は下記の通りです。

経済は、全体としての需要不足に苦しむことがあり得るし、また実際に苦しんでいる。それは非自発的な失業につながる。

経済が需要不足を自動的に治す傾向というのは、そんなものがそもそも存在するにしても、実にのろくて痛みを伴う形でしか機能しない。

これに対して、需要を増やす為の政府の政策は、失業をすばやく減らせる。

ときにはお金の供給を増やすだけでは民間部門に支出を増やすよう納得してもらえない。だから政府支出がその穴を埋める為に登場しなきゃいけない。

クルーグマン教授のさっさと不足を終わらせろ、ケインズの一般理論は改めて読み返してみる価値が大きいと思います。特に消費税増税の影響を大きく受けそうな現在の情勢のなかでは意義は深いと思われます。

財政支出は決してバラマキではありませんし、将来世代への負担の付け回しでもありません。この様な主張をする人たち−民主党議員(アメリカでなく日本のです。)なんかが多いのか?−は経済に疎く不勉強なのか?或いは別の意図、悪意があるのかと勘ぐりたくなります。財政支出しないことにより現在の世代に塗炭の苦しみを与え、将来世代には荒廃した格差の大きな社会を与えることになります。また税収不足からくる政府債務の累積を逆に残すことになります。歳出した方が税収は上がり、債務は減るのが真理です。

不況は繁栄への罰ではない!